ビレイループかタイインポイントか


こんにちは、カラファテ川上店の王鞍です。
 
最近ではメトリウスのPAS、ペツルのコネクトアジャスト、グリベルのデイジーチェーンEVO、などなど様々な自己確保用のランヤードが各社から販売されています。
 
しかし各製品のテクニカルインフォメーションを見てみると、例えばペツルのコネクトアジャストであればビレイループに、BDのリンクPASやメトリウスのダイナミックPASはタイインポイントに接続するようにと推奨しています。
 
けっきょく自己確保用のランヤードはビレイループとタイインポイント、どっちに接続すればいいの?と混乱される方も多いのではないのでしょうか。ここではビレイループ推奨派とタイインポイント推奨派のそれぞれの理由を見てみます。
 
まずはアルテリア社(ペツル)が出している技術情報から見ていきましょう。
 
 

 
上の記事で、
「安全および強度の観点から見ると、ランヤードはビレイループ、タイインポイントのどちらにも連結できます。しかし、快適性を考慮すると、ビレイループへの連結がより良いと言えます。」
と述べています。
 
「快適性」について、タイインポイントにガースヒッチをすると股上が締め上げられる形になります。この状態で何ピッチも懸垂下降を繰り返すと股が痛くなってきます。
さらにダブルロープでの登攀時に装着した場合はタイインポイントが混雑します。クリップ動作が遅れたりムーブに窮屈さが出ることも。
 
「安全および強度」に関しては、ビレイループがCE認証試験をパスするためには15kNの強度が求められていますが、BD社が行った実験によると実際はそれよりもかなり頑丈に作られていることがわかります。*1
ある実験ではビレイループの幅の75%の切り込みを入れても約13kNの強度を示しました。
 
 
次にタイインポイントを推奨しているメーカーの見解を見てみましょう。
 
 
BDの行った別の実験によると、リンクPASをタイインポイントに接続した場合は27.7kNでPASが破断、ビレイループに接続した場合は21.9kNでビレイループが破断したという結果が出ました。*2 
21.9kNというのはクライミングでは全く不足のない強度ですが、経年劣化や摩耗を考えるとタイインポイントとの強度の差は注目に値します。
ビレイループにガースヒッチをすると常にループの同じポイントが締めつけられ、特に細いダイニーマスリングでは一点が集中的に摩耗していくことになります。また、ダイナミックロープのように衝撃吸収性に乏しいためビレイループへのダメージも大きくなります。
 
多重性(redundancy)の観点から考えると、ビレイループはそこが破断したらアウトですが、タイインポイントはループが二つあるのでどちらかが破断してもセーフです。
 
また、ビレイループはビレイ用に高い強度を維持しておきたいので、自己確保でむやみに摩耗させるべきではないとの見識もあります。
 
 
さて、これまで見てきたビレイループ派とタイインポイント派の見解をまとめると、快適性と安全性のバランスからダイニーマのランヤードはタイインポイントへ、ダイナミックロープを使用したランヤードはビレイループへ接続するのがベターではないでしょうか。
 
しかしメトリウスのダイナミックPASはロープ型のランヤードですがタイインポイントへの接続を推奨しています。
メトリウスはペツルよりも安全性を重視していると考えられますが、これは(完全に個人的な憶測ですが)2006年に起きたアメリカのレジェンドクライマー、トッド・スキナーのヨセミテでの事故の教訓がアメリカで根強いからかもしれません。
 
 
ランヤードはダイニーマ型もロープ型もハーネスにガースヒッチしたまま保管することは避けるべきです。
ビッグウォールクライマーだったスキナーは、擦り切れたハーネスのビレイループに常にランヤードを結んだまま繰り返し荷重をかけていたためループの一点が著しく消耗した結果、墜死してしまったと言われています。
 
また、タイインポイント、ビレイループに関わらずランヤードで自己確保をとった状態でアンカーより上に登ってフォールした場合はランヤード、ハーネス、人体のいずれかが破損する可能性が非常に高く大変危険です。
 
基本的には登攀中のビレイ点ではメインロープでセルフを取り、懸垂下降の時にはこういった自己確保用ランヤードを使用するのが、安全性、快適性、利便性の面からもメリットが大きいと思います。
クライミングにおいて“絶対”のルールはなく、クライミングで生じるリスクは自己の責任で選択していくものである以上、正しい情報を集めて自分が納得できる形を探すことが大切なのではないでしょうか。
 
 
*1ビレイループ強度テスト
 
 
 
*2リンクPAS強度実験