スカルパ T1&T2エコ

ATスキーブーツの次はテレマークスキーブーツのレポートをお届けしたいと思います。
まずは75mm Nordic Norm規格のものから。

 

スカルパ T1




4バックル1ベルトタイプで、材質にぺバックスRnewを用いた、75mm NORDIC NORM規格のハイパフォーマンスブーツになります。



T1 現行モデル

まずは、スカルパのテレマークスキー向けプラスティックブーツのお話を少し…。

テレマーク用のブーツは1990年代の初めまで革製のものが主流でした。これは前後差のあるテレマークポジションをとるうえで指の付け根部分の屈曲性が求められたため、これを機能させやすい革ブーツで作り続けられたという事情があります。しかし、革ブーツは素材の特性上防水性能が十分でなく、パワー伝達性やねじれ剛性、保温性の面でもやや不利という悩ましさを抱えていました。そこでスカルパ社がこの課題を克服すべくプラステック製のテレマークブーツブーツを開発したのです。製品名は「TERMINATOR(ターミネーター)」、1991年発表、1992年販売開始の出来事でした。


TERMINATOR(初期型)

世界初のテレマークスキー用プラスティックブーツには、指の付け根部分に蛇腹が付いていました。当時のカタログに「32万回の屈曲耐久テストをクリアー」と謳われていたのを覚えています。この「曲がること」が当時としては開発の目玉だったのですね。素材にはスカルパがフランスのケミカルメーカーと共同開発した「APIAX(アピアックス)」が用いらていました。

工業技術としては斬新だったのですが、滑走フィールについてはそれまでの革靴との違いもあって、市場に受け入れられるまでには少し時間が掛かりました。しかし、プラスティック製であるメリットは大きく、更なる改良を受けながら進化してゆくことになります。


TERMINATOR 2(初期型)

1993年には、パワーベルトを省略して2バックルのみとしたミドルハイ(アッパーカフ)のオールラウンドモデル「TERMINATOR 2(T2)」がラインナップに加わります。その後、原点となった「TERMINATOR」は3バックル化されて、やがて「T1」と呼ばれるようになります。


T1 1997-1998モデル

また、1997-98シーズンから2014-15シーズンまでは、バリエーションモデルとしてシェル硬度を高めたレーシング・エキスパートスキーヤー向けの「T レース」もラインナップされていました。


T レース 最終型となった2014-2015モデル

T1(TERMINATOR)はこれまでに数回のモデルチェンジを受けており、1992年からの初期型(当初2バックルだったものが途中で3バックル化され素材も変更されている)、1999-00シーズンから2005-06シーズンのモデル(新モールドを開発・途中で熱成形インナーブーツ仕様が追加される)、2006-07シーズンから現在まで続くモデル(硬さの異なる二種類のプラスティックを組み合わせたデュアルデンシティー構造となり、4バックル化されアッパーシェルも変更される・その後インナーブーツの変更、素材の変更、バックルや前傾ロック機能のパーツ変更、カラーチェンジなどのアップデートも行われている)という過程でアップデートを遂げてきました。特に1999-00シーズンに発売された新型は時代をリードする高性能ぶりで、これ以降のモデルは多くのテレマーカーに支持されてゆくことになります。ここ数年の仕様変更の内容を見る限り性能面で大きな変化はありませんが、これはほぼ完成の域に達した製品である証なのかもしれません。

個人的な話になってしまいますが、僕はこれまでT1の1999-00シーズンモデルとT レース(バリエーションモデル)の2014-15シーズンモデルを使ってきました。ここ一番でどっぷり滑り込みたいというような時には、このモデルを持ち出すことが多かったです。

75mm規格の中でも、22デザイン・アクセル&ヴァイス、BD・O1&O2、ロッテフェラ・コブラR8などのハイサポート系のビンディングとの相性は抜群ですね。


続いて
 

スカルパ T2エコ & T2エコ ウィメンズ





3バックル1ベルトタイプで、材質にぺバックスRnewを用いた、75mm NORDIC NORM規格のミドルハイトカフブーツになります。



T2エコ(左)とT2エコ ウィメンズ(右)

上の記事にも書きましたが、T2シーリズはTERMINATORから派生したミドルハイトのモデルです。初期モデルはパワーベルトなしの2バックルタイプで登場し、発売開始の翌年からは「T2 ソフト」と呼ばれる素材を柔らかめに設定したモデルも用意されました。その後、素材の変更を受けたのち、1997-98スーズンにはフルモデルチェンジが実施され、新モールドを採用し、パワーベルトも追加された「新しいT2」が登場します。ちょうどこの頃テレマークスキー向けに回転性能の高いワイドスキーが登場し始めており、それを操作するのに適したプラステックブーツのニーズが高まっていたことから注目を集めることになります。

このT2は結構使えるモデルだったこともあり、それまでテレマークスキーといえば革靴だったものが、この辺りから「評判も良いみたいだし、プラブーツも使ってみようか」という流れを作るきっかけになってゆきました。


T2 1997-98モデル

T2シリーズは2001-02シーズンに更なる変革期を迎えます。新しく開発しなおした第三世代の「T2」が登場するのです。モデルチェンジの内容も革新的で、3バックル+1ベルト、足の形にあわせて斜めに配置された左右非対称蛇腹の採用、しなやかなシェルフレックスでありながら、高いねじれ剛性を実現するデュアルインジェクションモールド(二種類の異なる硬さのプラスティックを組み合わせてシェル本体に用いたもの)により高性能化が図られていました。高い回転性能を持つワイドスキーが普及するタイミングに合わせるかの如く、それをコントロールする確かな操作性を持つブーツが登場する形になりこのモデルは大ヒット、テレマークスキーの世界に用具革命をもたらしました。



T2 2001-02モデル

その後は熱成形インナーブーツ仕様の追加、2005-06シーズンにはアッパーシェルをハイサポート化した「T2X」、2009-10シーズンには素材に植物由来の樹脂を用いることにより、生産過程でのエネルギーを節約しCO2排出量を抑えた「T2エコ」へと、その時代のニーズに合わせて進化してゆくことになります。


T2X 2005-06モデル


T2エコ 2009-10モデル

また個人的な話になってしまいますが、僕はこれまでT2シリーズのほぼ全てのモデルを使ってきました。初期型のT2 ソフト、1999-00シーズンの第二世代モデル、2001-02シーズンのNew T2、その後期型の2003-04シーズンモデル、2005-06シーズンのT2X、2009-10シーズンのT2エコ、2013-14シーズンのT2エコと実に7足にもなります。

特に2001-02シーズンのモデル以降は自分のメインブーツになっていて、ゲレンデだけでなくツアーで使うことも多く、パウダーからコーンスノー、クラスト雪やアイスバーンなど、良い雪だけでなくシビアなコンディションでもいうことを聞いてくれるのでとても重宝しています。


T2エコ 2012-13モデル

2020-21シーズン現在はカラーチェンジやバックルなどのパーツをアップデートした、ver.3の「T2エコ」が販売されています。絶妙なバランス性能や安定したサポート感を備え、日本人の体格や日本のフィールドにもマッチしたT2エコは、75mm Nordic Norm規格の中心的存在として多くのテレマークスキーヤーに愛用され続けているのです。


今年はアルペンルートがクローズする直前の立山で滑れるかもしれませんね。
計画を立てている方もいらっしゃるのではないでしょうか。