セルフジャミングプーリー3モデル比較



左から「マイクロトラクション」、「スポック」、「ナノトラクション」

※写真はスタッフの私物です。

こんにちは、カラファテ川上店の王鞍です。

今回はセルフジャミングプーリー、またはPCP(プログレス・キャプチャー・プーリー)と呼ばれるデバイスについて。
荷揚げや登り返し、セルフレスキューなどで一つ持っておくと便利な、一方向にのみロープが流れる滑車です。
その小型モデルの中で永らく一強の座をほしいままにしていた(?)ペツルの「マイクロトラクション」ですが、実は数年前に同タイプの優秀なライバルが出現しました。

それがエーデルリッドの「スポック」です。
ここではこの「スポック」と「マイクロトラクション」、そしてペツルのもう一つのPCPである「ナノトラクション」の3モデルを比較してみます。

まず「スポック」と「マイクロトラクション」はどちらもボールペアリング付きで90%以上の高効率プーリー、そしてデバイス自体はいずれも15kNまで耐えられます。(※ロープはもっと弱い力で外皮が破れてしまいます)

ではこの二つの主な違いは何かというと、
1.重量
2.対応するロープの径
3.プーリーの直径
4.カム(歯)を開いた状態でロックするシステム

が挙げられます。

まず1.の重量を見ると、マイクロトラクションは85g、スポックは60gと、マイクロトラクションの方が25g重くなっています。

2.の対応ロープの直径は、マイクロトラクションは8~11mm、スポックは7~11mmで、対応幅もスポックが有利です。

しかし3.のプーリー直径はスポックの方が小さく、荷揚げなどでロープを折り返して使用した場合は屈曲が強くなるため、仕事の効率が多少下がる可能性があります。この辺りはロープの直径や使用度によって差があるでしょう。

1.~3.を表にすると下のようになります。

 
  マイクロトラクション スポック
重さ 85g 60g
対応するロープの径 8~11mm 7~11mm
プーリーの直径 27mm 20mm
※全て各メーカーHPから参照

続いて4.ですが、これが一番大きな違いでしょう。
そもそもこのシステムは基本的にPCPを普通のプーリーとして使うためにあります。PCPにロープを着脱する際にカムを上げておかなければいけないと思われがちですが、ロープの流れる方向(カムが効くのと逆向き)にロープを押しながら入れるとカムを下ろしたままでも簡単にセットでき、外すときも同様です。

さて、本題のカムロックシステムの違いですが、ボタン式のマイクロトラクションに対して、スポックはワイヤー式です。



マイクロトラクションはカムを持ち上げてボタンを押すとロックされる

 
スポックはワイヤーを手前に引くとカムが上がる。 引き上げたワイヤーを奥に挟むとカムが固定される

マイクロトラクションのボタン式の方がシンプルですが、PCPとして使用している最中にボタンが押されてしまいカムロックが意図せずかかってしまう、つまりロープが止まらなくなるという事態が時々起きてしまう問題がありました。ワイヤー式のスポックではこうしたリスクがかなり低いことが分かります。
ただワイヤー式は慣れるまで若干ぎこちなさがあるので好みが分かれるところかと思います。


さて、次はナノトラクションを見ていきます。
ナノトラクションの大きな特徴は53gという軽さとコンパクトさです。その代わりに上で述べたカムをロックする機能がありませんので、通常のプーリーとしての使い方は出来ません。
また、カラビナを通す穴が小さいため、スクリューカラビナだとゲート部分を通過しません。マイナーアクシスになりにくく安全性が高いとも言えますが、セットは少しやりにくくなります。

 
スポックはスクリューゲートを楽々通過 ナノトラクションは通過できない


改めて3モデルの比較表は下のようになります。
 
  マイクロトラクション スポック ナノトラクション
重さ 85g 60g 53g
対応するロープの径 8~11mm 7~11mm 7~11mm
プーリーの直径 27mm 20mm 18mm
※全て各メーカーHPから参照

個人的には程よくコンパクトで取り回しがしやすくカムロックの安全性が高いスポックを愛用しています。
一つ気になる点を挙げるとすれば、カムの歯を指で持ち上げる際にたまに痛いことがあるところでしょうか。
マイクロトラクションやナノトラクションでは指でカムを持ち上げるための”マチ”がありますが、スポックにはありません。
痛くないように先端だけ歯を丸く削ろうかとも思いましたが、この歯が先まであることが対応ロープ径の幅広さに寄与しているかもしれないので踏みとどまりました。
ペツルのPCPは持ち上げやすい余白付き スポックはちょっと刺さる...


以上、3つのモデルのPCPを比較してみましたが、いかがだったでしょうか?
それぞれ一長一短あることがお分かりいただけたかと思います。
これからセルフジャミングプーリーの購入を検討されている方の参考になれば幸いです!