取付で気合たっぷりの中根
未知への探検の要素を含む冒険的なクライミングは、誰でもできるわけではありません。
でも、そういったことに挑戦できたらば、誰でもそのワクワクに心打たれ、クライミングの奥深さに感銘を受けるものです。これは、カラファテスタッフの僕と荒山ちゃんの、この夏のちょっとした冒険物語なのであります。
小川山の岩場に車で向かうときに、遥か山の上にそびえ立つ全方向がハングした岩峰に目がいく人は少なくないだろう(冒険心があるクライマーほどよく気付くみたい)。
その岩は「兜岩」と呼ばれ古い地図にはその名前が載っています。「あの岩は、登られているのだろうか?あの上に立ってみたいなぁ」と僕は常々思ってきました。
2021年の秋、長年のアプローチ問題をようやく解決し、兜岩の基部に達することが出来たのです。コロナ禍の中でパートナーとのクライミングができなかった為もあり、初雪が根雪になるギリキリのタイミングで、ようやく岩そのものにアタックすることができました。新島孝氏という強力なパートナーとのペアで、初登頂を成し遂げました。頂上に登り付き、そこになんの痕跡も無かったときの興奮と感動は筆舌に尽くしがたいものがありました。
ボルトを打っての人工登攀で初登した兜岩を、2022年6月須藤哲平君らをパートナーに再訪して、初登ルートを、フリー化することもできました。しかし、初登ルートは、5.12aとなかなかに難しくて、その時に更に左手に弱点をうまくついた新しい、ラインを見出しました。
初登ラインをフリー化したときの写真
遠望できる巨大なチョックストーンを越えて行く、新ラインに、2022年夏カラファテの仕事仲間、荒山ちゃんと挑むことに、なりました。
3回目でだいぶ慣れたアプローチですが、やはり2時間かかってようやく岩の基部に到着。必要最低限の道具でリードしないと、とても登れたものではありません。
まずザラザラのクラックをカムのプロテクションでリードし、チョックストーンの基部テラスに上がります。そこには先人がここまで登った痕跡の小さなケルンがありました。チョックストーンは、ツルツルのスラブです。できるだけ高い位置にボルトを一本打ち込んで、それをプロテクションとして、悪いマントルをこなして岩茸だらけのスラブを登り、本体ヘッドウォールの下に出立ちました。足元にかろうじてカムが効きます。最も傾斜角度が緩く見えたそこも、やはり最初の3メートルは垂直以上にハングしていて、クラックや、ポケットもなく、ボルトを打たないと登れそうにありません。なるべく高く離れた位置にボルトを3本ほど連打し、人工登攀で進みました。
3本目のボルトの先から、左に回り込むと傾斜が落ちたスラブ状になっていて、ホールドもあり、なんとかフリーで行けそうです。とはいえ、岩茸だらけで、しかも、ドリルやハンマー、終了点セットを担いだまま、ランナウトで登るのは度胸満点。気休め程度に岩茸を掃除し、気合を入れて登ります。幸い頂上へのマントル部分には良いホールドがあって、岩茸だらけでしたが、なんとか落ちずに登頂できました。
広くて平らな頂上には、相変わらず水が溜まった丸い池みたいなものかあって、水草がそよいでいました。何度登っても、この頂上は特別な気分になれます。まるで地球のてっぺんに立ち宇宙と交信が出来そうな気さえするのです。足元に広がる景色を堪能した後、あらためて新ルートの終了点を設置し、さらに、歩いて南端まで行き初登ルートの終了点の点検整備もしてから、一度取り付きに戻りました。
兜岩頂上の不思議な池
今度は荒山ちゃんが、トップロープで登って頂上に立ちました。続いて私が掃除のため登り、ビレイしてもらいながら、岩茸を取り除き、ムーブを作ります。前傾部分もロングリーチながら良いホールドがあり、ムーブが繋がりました。ヘッドウォールの部分を再度トライし、ノーフォールで登ることができました。
兜岩を登る荒山
天気はよく晴れ渡り、心配した夕立もなさそうてすが、帰りも2時間の山歩きなので、後ろ髪を引かれながらも帰途につきました。
荒山ちゃんと話し合って、今回のルートの名前を「ノーザン ライスフィールド」にすることに決めました。今年初めに僕ら二人とスキー登山に行き急病で帰らぬ人となった北田社長を偲んでのネーミングであります。
こうして、二人の夏のささやかな冒険は、終わりました。