今シーズンは雪がしっかり降ってくれたので、春ツアーもまずまずのコンディションで楽しめそうですね。
今回はちょっと技術的なお話を少し。
G3 タルガ
1990年代の終わり頃に発売になった75mm Nordic Norm規格のケーブル式ビンディングで、踵の上がり感が軽やかで動きに癖がないことから、多くのテレマークスキーヤーから支持されてきました。
2002-2003シーズンにハイパフォーマンスヒールとツアースローを追加するマイナーチェンジを行っていますが、基本的な性能に変化はなく20年以上もの間販売が続けられたロングセラーモデルになります。
最近、このビンディングの修理やパーツの問い合わせが増えてきています。その内容は「ヒールスロー(スキー装着時に使うヒールレバー)が割れてしまった」、「トゥーピースとスプリングユニットを繋げているケーブル(フロントケーブル)が切れてしまった」というもの。
フロントケーブルは消耗品ですので、外側に巻いてある被膜がすれて薄くなってしまったり、ワイヤーが切れてしまったら交換するしかありません。
山の中などで切れてしまうと厄介なのでお出かけ前には目視点検していただいて、劣化が確認されるようであれば交換をお勧めします(細いスチールワイヤーを束ねて縒ってあるものなのですが、この細いワイヤーが一本でも切れてしまうとみるみるうちに他のワイヤーも切れてしまうものなので、おやっ?と思ったら早めの対応をしておいた方が安心です)。
タルガはケーブルがトゥーピースとライザープレートの間を通っているので、ケーブルの交換に一手間掛かります。ドライバーがあれば切れてしまった現場でも交換できなくはないですが、寒い日などに雪の上でこの作業をするのは辛いものがあります。なるべく出掛ける前にコンディションを整えておいたほうが良いでしょう。
もう一つ、よくお問い合わせをいただくのがヒールスロー(着脱の際に使うプラスティック製のハンドル)割れです。
時間とともにプラスティックが劣化してゆくので、経年機を中心に多く見られる症状なのですが、比較的新しいものでも割れてしまっているものがあります。
ケーブルビンディングはフリーヒールの動きを支えられるように、ケーブルの途中にバネを組み込んでブーツをホールドする構造になっています。
タルガシリーズのビンディングはブーツの横位置にある銀色の筒(カートリッジと呼びます)があり、中にコイル状になった金属バネが入っています。コイルバネは比較的省スペースでストロークを吸収するのに優れた性能を持っていますが、構造上ストロークを使い切ってしまうと動きが止まってしまい底着きを起こしてしまうという特性を持っています(この状態をフルボトムと呼びます)。
タルガは軽量シンプルに作られており、スプリングカートリッジも必要最小限のスケールで設計されています。ブーツサイズに合わせて適切に調整されていれば良いのですが(普通に滑る分にはフルボトムを起こしてしまうようなことはないのですが)、「バネのテンションは硬めが好みだから」と調整時に締め込みを強くして使われているケースが見受けられます。
また、上手くターンできずに転倒してしまうこともあるでしょう。
このような負荷が大きい状態になるとバネはストロークを使い切ってフルボトムを起こしてしまい、吸収しきれなくなった力が他のパーツにストレスを与えてしまいます。その結果、無理な力が掛かってフロントケーブルが切れてしまうか、ヒールチューブ(カートリッジからヒールスローに繋がっているU字型をした金属製の筒で中にワイヤーが通してあるパーツ)が変形してしまうことになるのです。
U字の形が窄まってしまったヒールチューブ(重ねた下側)
ツアースローを外すと中が変形してしまっている(画像上)
ヒールチューブの変形に気が付かずそのまま使い続けてしまうと、スキーの着脱の為にヒールスローを操作するとパキッと割れてしまいます。
割れてしまった場合は新しいものに交換するしかないのですが、ヒールチューブの変形を解決しないまま新しいヒールスローを取り付けてもまたすぐに割れてしまうことになります(ヒールチューブの変形でケーブルの調整が緩くなってしまうので、さらに締め込んで使ってしまい大きく変形してしまっているものも見受けられます)。
数回の軽い転倒でヒールチューブが大きく変形してしまうことはまずないのですが、激しい転倒をしてしまったり、転倒回数が積み重なってくると徐々に変形してしまいます。
もしヒールスローが割れてしまった場合は、ここも同時に点検してあげなくてはいけません。
タルガは割とソフトなホールド感のビンディングです。装着時に軽くテンションが掛かるくらいにケーブル調整をしてお使いください。
また、ヒールスローの割れを少なくするためにも、ヒールスローの取り付けネジを締め過ぎないようにしたり(緩すぎるとネジが外れてしまうので注意しなければいけませんが)、スキーを外す際にヒールスローをストックの先などで操作するのを避けるなど、パーツにかかるストレスを少なくするよう工夫してあげると良いかと思います。